Liner notes

それはソロ・アルバムとは違った意味で、s-kenの仕事の集大成のようにも思えてくる。 (文:高橋健太郎)


 『s-ken presents Apart.Records collection 1999-2017』は、s-kenが1999年から2017年にかけて、apart.RECORDSにおいてプロデュースを手掛けたアーティスト達の楽曲を集めたコンピレーションだ。

 s-kenは2017年に25年ぶりにレコーディング・アーティストとして復活。ソロ・アルバム『Tequila The Ripper』を発表した。2018年には自身の体験を綴った回想録」『都市から都市、そしてまたアクロバット 回想録1971年〜1991年』が出版される。これは表題にもある通り、1991年で終わる回想録で、その後、s-kenはプロデューサーとして、どちらかといえば裏方として、音楽活動を続けてきた。手掛けたアルバムは100作品を越え、クラムボン、スーパーバタードッグ、PE’Zなどのビッグネームも世に送り出した。90年代以後の東京の音楽シーンに、s-kenが吹き込んできた熱気は、現在まで途切れることがない。

 1999年には制作拠点としてワールドアパートを設立。このコンピレーションに収められたのは、それ以後、ワールドアパートが原盤制作した12アーティストの28曲だ。プロデューサー名義のコンピレーションという位置づけだが、代表曲を網羅したというよりは、s-ken自身が強い思い入れを残す曲、この2018年にもう一度、聴いてもらいたい曲を並べたアルバムと考えていいだろう。

 世の中のプロデューサーには幾つかの類型がある。エンジニア・プロデューサー、アレンジャー・プロデューサーなど。だが、s-kenのプロデューサーとしての仕事はどこにあったのか、外形的には解らないものが多い。実際、それはケースバイケースで、アレンジやサウンドのアイデアを出すことだったり、歌詞をともに考えることだったり、PE’Zの場合などはジャズ・サークル出身のミュージシャン達に出発点となるバンド・コンセプトを与えることだったりしたという。

 プロデューサーは目立ってはいけない、というのが、s-kenのプロデューサーとしてのポリシーでもあった。フィル・スペクターのコンピレーションはどこを切ってもスペクター・サウンドが飛び出てくるが、このコンピレーションは曲ごとに違う色彩感がこぼれ出すし、それぞれのアーティストの人間的なものが強く打ち出されているのが感じられる。そこを磨き上げるのがs-kenの仕事だったのだろう。

 だが、28曲を聴き進んでいくと、それはソロ・アルバムとは違った意味で、s-kenの仕事の集大成のようにも思えてくる。アフロ・ラテン的なグルーヴのある音楽とパンク的な尖った音楽。その両方を愛してきたのがs-kenだった。アーティストであることやプロデューサーであること以前に、鋭い嗅覚を持つリスナーであること。それがs-kenのすべての仕事の根幹にあったのではないかとも思う。このコンピレーションからもそんなs-kenの資質が強く伝わってくる。

 90年代以後の日本の若者向けの音楽はJ-POPと呼ばれるようになった。洒落たセンスで欧米のサウンドを掬い取る「渋谷系」が、トレンドの転換点になった部分もある。s-kenのプロデュース・ワークも時代的にはそれと並走していたはずだが、s-kenはもっと強い色や匂いを持った音楽を追い求めてきたこと、ポップスとしての規格品的な精度など眼中になかったことが、これを聴くとよく解る。音楽的にはラテン的な要素の配し方が他にはないs-kenサウンドの特徴だったのにも気づく。表面的にはラテンっぽくない曲でも、ちょっとした音使いにラテン性が潜んでいる。1999年から2017年という長い期間の録音物を並べているのに、バラついた印象がほとんどないのも、そんなs-kenテイストの揺るぎなさゆえだろう。

 1999年という年は日本のレコード業界が最大のセールスを挙げた年だったが、翌年からは坂を転げ落ちるように不振が始まる。s-kenがワールドアパートを作ったのは、そんな折り目の年だった。そこは苦難の時代に若いアーティスト達を受け入れるシェルターのような場所として生まれたかのかもしれない。

 12組の中には結果的に成功したアーティストも、消えてしまったアーティストもいる。成功するかどうかは運に強く左右される。だが、振り返ってみると、音楽的な質にはほとんど差はないんだ、とs-kenは語っている。聴いてみると、本当にそう思う。僕がもっとも心動かされたのは、今は活動休止してしまっていると思われるDONNY FU やAMY ANNAPURNAの音源だった。彼らの音楽を、そこからこぼれ出す他の誰にも表現できない人間的なものをs-kenが今も愛し続けていることがよく分かる。これはそんなコンピレーションだ。

 ソロ・アルバムや自叙伝はs-ken自身の作品だが、このコンピレーションは彼が触れた12組のアーティストを通して、s-kenとは何者だったのか、彼は何をやってきたのかを雄弁に語っている。そして、ラストのSabado Fiesta「雨のオモチャ箱」まで辿り着く時、それは長編映画のサウンドトラックのようにも聴こえてくるのだった。

(text by 高橋健太郎)


【収録曲】
Disk1
1、HEY!JORDU!/PE’Z 
2、マドロス横丁/中山うり
3、うねる荒野/DONNY FU
4、500マイルの未来に咲く花/iLala
5、珈琲でも/nitt
6、アイスクリームカフェ/コーヒーカラー
7、マルクス/ROCO
8、boosuka-boo/久和田佳代
9、collective mode/PE’Z
10、僕のダイナモ/Kent Kakitsubata
11、Shinzo BakuBaku Ochokochoi/BimBamBoom
12、スピンダンス/Sabado Fiesta
13、太陽の子/ROCO
14、暁のフォルテシモ/中山うり

Disk2
1、月とラクダの夢を見た/中山うり
2、寝ても覚めても夢を見る/nitt
3、プリマべイラの赤い花/iLala
4、O.E.C.Tiger roll/BimBamBoom
5、イケマセン/DONNY FU
6、うるうると指切りを/久和田佳代
7、アクエリアス/AMY ANNAPURNA
8、TOKYO YUKI/BimBamBoom
9、チッチッチクタクブンバボン/Kent Kakitsubata
10、真夜中に流れ星/久和田佳代
11、ドッグラン〜俺たちは犬である/コーヒーカラー
12、STAR FISH/PE’Z
13、あめあがリズム/DONNY FU
14、雨のオモチャ箱/Sabado Fiesta

 

【収録アーティスト】
PE’Z/中山うり/DONNY FU/iLala/コーヒーカラー/ROCO/nitt/BimBamBoom/久和田佳代/Kent Kakitsubata/Amy Annapurna/Sabado Fiesta

 

【発売日】6月27日

【商品番号】PWA-0023/24

【価格】¥2,500(tax out)

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